ある日の善知識のお部屋、縁側からはきれいに手入れのなされた庭木が、しっとりとした落ちつきを見せていた。
フトそこに目を止めた私が、赤いモミジを指さして、
「紅葉は一年中赤いものもあるのですか」と尋ねた。

「いや、あれはタヌキヤマと言うんだよ、その横に青い葉をつけているあれが紅葉だよ」

と教えて下さった。
「でも良く似ていますね、私にはどれがどれだか見分ける事が出来ません」と言うと、
「葉を良く見てごらん、あんなに違うんだよ、似ている所は少しもないね」
「そう言えば全然違いますね」

「判っている者には判り過ぎる位判るのに、知らない者にはあんなに違うのも同じに見えるのかね、だから雑行雑修も判っている者にすれば、ハッキリし過ぎる程判るのに、知らない者には雑行雑修が何やら判らないんだね」
雑行雑修を振り捨てよ、と常に仰言る親鸞聖人、
こんなに違うと言われても、私には雑行雑修が何か全く判らない。
しかしこの紅葉とタヌキヤマの様に、ハッキリ見分ける事の出来るまで、ああこれが雑行雑修であったのか！
と言える日まで浄土真宗の法話を聴聞してゆかねばならないと知らされるのみでした。